「もしもし。オレだよ、オレ」
「孫の伸介かい?」
「ん? あ、そうそう! 実は、おばあちゃん、大変なことに……」
「交通事故でも起こしたのかい」
「そ、そうなんだ。相手がヤクザで三百万円払わないと指を詰めるって脅されてる。お願い! すぐ銀行に振り込んで」
「目が不自由で外出できないことは知ってるだろ。お金なら、いくらでもあるから、取りにおいで」
「でも、オレ、監禁されてて動けないんだ。そこの住所も、うろ覚えだし」
「だったら使いを寄こせばいい。番地を教えるから。世田谷区……」
「分かった! お金、ちゃんと用意しといて」
「いいとも、待ってるよ」
ニタリ。人骨が転がる薄暗い室内で黄ばんだ牙を剥き、鬼婆は包丁を研ぎはじめた。
By 川又千秋
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この超短編作品はちょうど三百文字で書き上げられている。文源庫が出版する『遊歩人』上で展開されている「三百字小説」の一例だ。
遊歩人もいつの間にその発刊から6年半が経ち、既に80号を数えるまでになっている。