炭団坂を下りると本郷菊坂下道に抜ける。両側にしもた屋が迫ってくる細い道を左に折れる。歩き始めて直ぐ左手に樋口一葉が明治23年(19801年)9月からおよそ3年間(18歳から21歳まで)を過ごした菊坂下道の路地奧が見えてくる。文学愛好家がしばしば訪れるこの有名な横丁は存外狭くて小さな空間だ。
路地を入ると右の隅に今はポンプが付いている掘り抜き井戸がある。樋口一葉も使ったと言われている井戸だ。正面の急な石段を上ってゆくと本郷台地の北の端を高い石垣が支える湿った路地に出る。

本郷台地が谷地の菊坂へと落ちてゆく坂や階段が多いこの狭い一帯は、私が生まれてから30年間を過ごしたところでもある。
