2011-03-05

女書

 かつてゲストとして招かれたことがある「もじもじカフェ」は11回目だったが、その後も回を重ねて今日は第28回目。テーマは「中国・女文字の世界」。
 会場は飯田橋のモリサワ東京本社9階ホール。
 定員60名の会場は予約受け付け時点で満席になったとのこと、キャンセルを待つ受講希望者も多かったようだ。
 第一部のゲストは日本語研究者の遠藤織枝さん。
 「女書 (Nushu)」とは中国湖南省江永県の一部に住む謡(やお)族の女性だけが読み書きする女文字のこと。
 遠藤さんが1993年に北京で初めて女書に出会ってから今日までの研究成果の一部を紹介してくださった。
 以下、遠藤さんの発表からその一部を紹介させていただく。
 女書が生まれた背景には、この地方特有の風習「結交姉妹(けっこうしまい/血縁のない二人以上の娘達が義理の姉妹となること。実の姉妹以上に強い絆で結ばれるという)」や、嫁ぐことは不幸であるという結婚観、徹底した男女の役割分担・分業、豊かな農作物をもたらす自然環境、漢民族と謡族が混在して暮らす地域であったこと、などなどがあるという。
 スクリーンは遠藤さんが調査に訪れた村の様子。
 女の仕事の典型「女紅(じょこう/織物・縫い物・刺繍・布靴作りなど女性の手仕事の総称)」のうち刺繍や縫い物が会場入り口に展示されていた。
 親が決める結婚は絶対で、生まれ育った村から他の村(そして他姓)に嫁いでゆかねばならず、併せて「結交姉妹」から離れることでもあり、結婚は若い女性にとって幸せなことではなく悲しいことであったという。
 そんな花嫁に結交姉妹や母、おば、実の姉妹などが冊子を手作りし、女書で歌を書き添えて結婚三日目に贈るのが「三朝書(さんちょうしょ)」で、新婦にとっては非常に大切なものなのだという。
 第二部のゲストは現地から来日中の何艶新さん。
 女書の最後の伝承者* と言われる何さんだが、さっそく女書を書いて見せてくれた。
 とても1939年生まれとは思えないお元気な何艶新ん、聴講者達からの質問にも最後まで丁寧に答えてくれた。
 予定外のことだったが何さん直筆の色紙が頒布された。用意された10枚ほどはあっという間に完売してしまった。
 女書は七言絶句や五言絶句のような詩の形式と密接に結びついたもので、日常のメモや書き付けには用いられないという。
上位手巾尺五長
為的四辺大姉妹
大姉有歌応該唱
不要妹娘起歌声
    何艶新書

 中国語ネイティブにこの詩を見せたが、標準中国語とは異なる表記らしく、何を詠んでいるのかよく分からないようだった。詩の大意は推測も交えて、多分こんなものだろう。

『高く掲げたハンカチは五尺の長さ 姉妹達が回りを囲む
姉達は唄を歌うべき 妹の母は歌声を求めず 何艶新 書』

* 何艶新さんは漢字教育を受けた世代だが、子供の頃、結交姉妹達と女書で詩をやりとりをした祖母から女書を教えられたという。伝統的な環境で女書を身につけた人で現在も健在なのは何艶新さんお一人と考えられている。近年になって養成された継承者は5、6 人いるという。

1 件のコメント:

  1. リリー3:16 午後

    最近「女書」に関する翻訳をしました。「女書」の存在は今まで知りませんでしたが興味がありますので、勉強をしたいと思います。中国(江南省)昔の女の人は賢いと思います。そして、「男尊女卑」の世界では、女の人の苦しさを感じました。。。

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